広告界の祭典「カンヌライオンズ2021」は1年に1度開催される授賞式で、2021年は6月21日~25日に開催された。
優れた手法や切り口を展開した広告作品に対して贈られる、「Communication」部門から、映像に特化した作品に「Film Lions」など各種部門に分かれている。
ここでは、戦略的な屋外広告を評価する「Outdoor Lions」を受賞した作品をピックアップしたい。
ハイネケンのシャッター広告がグランプリ受賞
ビールのメーカーハイネケンがシャッター広告を活用した作品が、アウトドア部門でグランプリを受賞した。
コロナ禍になり、閉店を余儀なくされたバーやレストランは多数あり、その損害は今も計り知れない。
そんな、店舗たちを応援すべく、ハイネケンは他へ出稿している広告費を削減し、そこでできた資金を経営で困っている各店舗のシャッター広告出稿費に充てたのだ。
もちろん、掲載料はその店舗にお支払いをするかたちで。
シャッター広告は面も広く、そのインパクトが与える宣伝効果は抜群。
数店舗が軒を連ねていると、また違ったスケールの印象を残す。
ハイネケンは広告を出稿することで露出をすることを目的としながら、経営に苦しむバーやレストランの店舗への新たな収入源を提供したのだ。
「See this ad today, enjoy this bar tomorrow.(今日はこの広告を見て、明日はこのバーで楽しもう)」
このシャッター広告の魅力はもうひとつ。
広告に書かれているメッセージ「See this ad today, enjoy this bar tomorrow.(今日はこの広告を見て、明日はこのバーで楽しもう)」。
店舗への支援はもちろんことながら、この広告を見た人の心を前向きに揺さぶるようなメッセージ性は消費者への想いも汲み取っている。
ビール会社にとって飲食店はパートナーであり切り離せない存在。
そのパートナーを思いやり、広告を出すことで、飲食店でビールを飲むことを楽しみにしている消費者へメッセージを届ける広告内容になっている。
このシャッター広告を見た飲食店も、消費者も、次回また店が開店する時の気持ちの糧にしたに違いない。
企業が主体的に課題を解決する新しい広告のあり方
広告のアイデアは古くから、何か疑問にぶつかった時や課題に直面した時に生まれるものだ。
一方では、ひとりよがりな広告物やメッセージ性が一方通行な広告も数多く存在する。
社会の中では、ステークホルダー間のwin-winな関係が築かれることが望ましいが、なかなかその全てを網羅している広告は多くはない。
今回のハイネケンのシャッター広告の事例のように、いち企業が主体となってステークホルダーとなるバーなどの飲食店の課題を解決したことは、新しい広告のあり方を築いたと言える。
今後、社会の中で「企業同士」「消費者同士」「企業と消費者」が、密接につながり合う関係性の中で、企業自体が課題解決に乗り出すような広告が増えていくのかもしれない。