ランチェスターの法則とは、第一世界大戦の頃にイギリス人エンジニアのF・W・ランチェスター氏が軍事戦略をもとに考案した概念です。現代では、戦場における強者と弱者に企業を当てはめた経営戦略として活用されています。
ビジネスにおける弱者(中小)・強者(大手)が取るべき基本戦略
ここでは、ランチェスターの法則を用いたビジネスにおける中小企業と大企業が取るべき戦略を説明します。
弱者の戦略:競合他社との差別化とトップとの一騎打ち
資源劣る中小企業は、質を高める方向で戦略を立てる必要があります。具体的には、ニッチ市場や隙間市場を狙って、
競合他社と差別化をする方法があります。
そのために、4Pや4Cといったフレームワークを活用し、市場を深く理解する必要があります。
また、1つの市場に定めて資源を集中させ、トップと一騎打ちするという戦略もとれます。
強者の戦略:総合力を活かして市場規模を拡大した広域戦
資源の多い大企業は、ブランド力や資金力など、総合力を活かして市場規模を拡大した広域戦に持ち込むことが基本になります。例えば、中小企業が一点集中で商品を打ち出してきたのであれば、多数の商品で対応するという戦略です。
また、商品の宣伝においては、資金力を活かしてテレビCMやラジオ、広告などあらゆる媒体で顧客にアプローチする方法も考えられます。
ランチェスターの法則を活用するうえでの3つのポイント
1.一点集中主義
資本力で劣る弱者は、強者に全体の勝負を挑んでも負けてしまいます。そこで特定の商品やサービス、地域、顧客層といった一点に絞り、集中して勝負をかけていくのが一点集中主義です。例えば、「A市場」「B市場」「C市場」がある場合、すべての市場で勝負するのではなく、いずれかの市場のみにフォーカスして、その市場で勝利を目指します。自社が得意とする市場に全力を注ぎ、1位の分野を作り出すという結論を得る仕組みです。
また、市場を分析すれば、今は1位ではないが逆転できる可能性のある分野も見つけ出せるでしょう。しかし、一点集中はあくまで強者に勝つまでの突破口であるため、永遠に1つに絞ることではありません。その時々の状況にあわせた柔軟な経営方針も必要であると認識することが大切です。
2.No.1(ナンバーワン)主義
ランチェスター戦略におけるNo.1主義は、2位以下を圧倒的に引き離す状態になることを目指す考え方です。1位になっても、2位とさほど差がない状態では、「No.1」とはいえないとするのが特徴です。圧倒的に引き離した状態であれば、2位以下は、まともに勝負に仕掛けても企業体力がもちません。
僅差で戦う競合他社とのトップ争いを意識しなくなり、1位の収益性が向上する仕組みです。また、ここでの「No.1」とは、大きな市場で目指すという考えではありません。どんなに小さな市場、領域でもよいので、まずはそこでNo.1を目指します。市場でNo.1になって知名度が上がり、利益性も向上すれば、その勢いで他の市場でもトップを狙っていけるでしょう。
3.「足下(そっか)の敵」攻撃の原則
「足下の敵」とは、自社よりも市場シェアが1つ下の競合を指します。例えば、自社が2位であれば3位の企業が足下の敵に該当します。足下の敵となる企業を攻撃することを「足下の敵攻撃の原則」と呼びます。
すべての競合と全方位で戦っていると、確率戦・消耗戦となってしまい、結果的に得るものが少ない状態になります。足下の敵攻撃原則では、勝ちやすい相手に的を絞る必要があります。
1つ下の企業に狙いを定め、競合が有する売上や顧客を奪えれば、自社との間の差も広がります。ここでは、足元をすくわれないよう競合だけでなく自社の市場価値や企業力も分析して挑むことが重要になります。
ランチェスターの法則を活用した企業例
弱者の事例:セブンイレブン
セブンイレブンが創業した間もない頃は、関西地域での知名度が低く、ローソンに負けていました。そこでセブンイレブンは、一点集中の戦略をとり、関西の一部地域で多くの店舗を開店しました。それにより、地域内でのシェアを獲得し、徐々に出店地域を増やしたそうです。
結果としてセブンイレブンは関西シェアでナンバーワンになり、現在は小売業界のトップになりました。
強者の事例:Apple
Appleは強者のランチェスター戦略を展開してきました。具体的には、スマートフォンやポータブルオーディオプレイヤーなどの他社の商品の、自社製品への応用です。
AppleはSONYのウォークマンからヒントを得て、後にヒット商品となるiPodを発表し、先にある他社の商品を研究し、それを上回る自社製品を展開することで市場のトップに立ち続けています。
まとめ
ランチェスターの法則はどの業種、企業規模でも活用できます。強者である大企業にも有効な戦略ですが、弱者である中小企業は特に有効でしょう。ランチェスターの法則を活用することで弱者も強者への対抗手段を考えられるようになります。